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浦和地方裁判所 昭和49年(行ウ)20号 判決 1981年8月05日

埼玉県越谷市北越谷二丁目四二番二号

原告

中田成一

右訴訟代理人弁護士

宮澤洋夫

市川幸永

須賀貴

右訴訟復代理人弁護士

村井勝美

佐々木新一

東京都千代田区大手町一丁目三番二号

被告

国税不服審判所長

岡田辰雄

右指定代理人

内津昌喜

長部順一郎

埼玉県越谷市越ケ谷一丁目一番一号

被告

春日部税務署長訴訟承継人越谷税務署長

高橋森

右指定代理人

藤田亘

今村公宜

右被告両名指定代理人

野崎弥純

三上正生

岩田栄一

中島重幸

右当事者間の昭和四九年(行ウ)第一一〇号裁決取消等請求事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告

(一)  承継前の被告春日部税務署長が、昭和四七年一二月二七日付をもってした、原告に対する昭和四五年分、同四六年分の所得税についての各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

(二)  被告国税不服審判所長が昭和四九年五月二八日付をもってした、原告に対する昭和四五年分、同四六年分の所得税についての各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分に対する審査請求についての裁決を取消す。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告越谷税務署長

(一)  原告の被告越谷税務署長に対する請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告国税不服審判所長

(一)  原告の被告国税不服審判所長に対する請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者者双方の主張

一  請求原因

(一)  原告は、越谷市において書籍販売業を営むものであるが、承継前の被告春日部税務署長に対し、昭和四五年分の所得税につき、総所得金額を金一〇七万円、所得税額を金六万一、二〇〇円、同四六年分の所得税につき、総所得金額を金一一六万円、所得税額を金六万一、三〇〇円とする確定申告書をそれぞれ提出したところ、同署長は、別表一、二記載のとおり、原告に対する更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした。原告は、これらに対して異議申立をしたが、棄却されたので、審査請求をしたところ、被告国税不服審判所長(以下、被告審判所長という。)は、これに対し、右更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の一部を取消し、その余の審査請求を棄却する旨の裁決をしたが、これらの詳細は、別表一、二記載のとおりであって、右裁決の結果は、昭和四九年六月一二日ころ、原告に通知された。

(二)  しかし、原告の所得金額は、いずれも確定申告書記載のとおりであり、本件各処分(審査裁決によって一部取消された後の各更正処分、過少申告加算税賦課決定処分をいう。以下、同じ。)は、原告の所得を過大に認定したものであって違法である。

(三)  本件各処分は、また、次の理由によっても違法である。

1 所得税法が所得税の納付につき申告納税制度を原則としている以上、税務署長が例外的にする更正のために行う調査は、納税者の申告を疑うに足りる十分な理由がある等合理的な必要性がなければ、これを行ってはならないものであるから、その調査をするについては、被調査者に対し、調査の具体的理由を開示し、その協力を求めなければならない。また、右調査権の行使は、納税者の得意先に対する信用を失墜させるような態様で行うことは許されないが、特に、納税者の信用失墜の危険性の高い反面調査は、納税者の調査の過程において、その調査だけでは、課税標準及び税額等の内容を把握できないことが明らかになった場合に限り可能であると解すべきである。更に、調査は、任意調査であるから、被調査者の依頼した第三者が立会うことも、何ら違法なことではない。ところが、本件の調査にあたって春日部税務署長所部の係官(以下、係官という。)は、調査に際し、調査理由を原告に開示せず、そのために右理由開示等の問題で交渉のさ中に、反面調査を行ったのである。また、係官は、調査現場において、原告の依頼した第三者が調査に立会うことを拒否した。

2 春日部税務署長の推計課税は、原告と、右の調査理由の開示について交渉中のものであり、未だ推計課税の許される要件が備わっていなかった。

(四)  春日部税務署長の本件に関する権限は、大蔵省組織規程の一部改正により昭和五四年七月一〇日被告越谷税務署長(以下、被告税務署長という。)に承継された。

(五)  被告審判所長は、前記審査請求の審理にあたり、原処分庁提出にかかる書類、その他の物件に対する原告の閲覧請求に対し、所得調査書等要約書なるものを閲覧させたのみで、違法にも原告の右閲覧請求を拒否した。

(六)  よって、原告は、被告税務署長を相手方として、本件各処分の取消しを求めるとともに、被告審判所長のした本件裁決の取消しを求めるため、本訴請求に及んだ。

二  請求原因に対する被告らの認否

(被告税務署長)

(一) 請求原因(一)の事実を認める。

(二) 同(二)の事実及び(三)の主張を争う。

(三) 同(四)の事実を認める。

(被告審判所長)

(一) 請求原因(一)の事実を認める。

(二) 同(五)の事実のうち、被告審判所長が原告に対し所得調査等要約書を閲覧させた事実を認めるが、その余の事実を争う。

三  抗弁並びに主張

(被告税務署長)

(一) 手続の適法性

1 原告は、いわゆる白色申告者であるが、本件各年度の所得税についての原告の確定申告書記載の課税標準及び所得税額は、同程度の事業規模を有する同業者の申告に比して過少であり、かつ、右確定申告書には、所得金額欄に所得金額が記入されているのみで、収入金額及び必要経費の記載がなく、所得金額の計算の基礎等の記載を欠くきわめて不十分なものであったので、その計算の基礎について疑いがもたれた。また、原告に対しては、昭和四二年の開業以来連年所得税の調査を実施していなかったので、本件各係争年分についての、原告の申告にかかる所得金額が適正なものかどうかを確認する必要があったため、春日部税務署長が係官をしてその調査を行った。その結果、本件各係争年分についての、原告の確定申告にかかる所得金額が過少であると認められたので、同署長は、右調査に基づき、本件各処分を行ったのである。

2 そして、本件各係争年における原告の所得金額は、次に述べる調査の経緯により、推計によって算定することが必要であった。

すなわち、右係官は、昭和四七年五月二六日から同年九月二八日までの間一二回にわたり原告方の臨店調査に赴き、原告に対し質問し、或いは、所得金額の計算の基礎になる帳籍書類の提示を求めたのであるが、原告が不在であった三回を除き、その他の場合には民商会員と称するものが同席して右係官の調査を妨害し、或いは原告自身が調査に応じなかったことにより、調査の目的を達することができず、原告から所得の計算について必要な事実を確かめることができなかった。

3 原告は、右の調査手続に違法があると主張するが、質問検査権は、所得調査の一方法として認められているものであって、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との較量において社会通念上相当な限度に止まる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているのであって、本件調査は、右合理的範囲を逸脱したものではない。

4 以上のように、原告は、調査に協力しなかったので、春日部税務署長は、推計により、原告の所得金額を算出更正し、過少申告加算税の賦課決定処分をしたのである。

(二) 昭和四五年分の各処分の適法性

1 原告の所得金額

原告の昭和四五年の所得金額は、金一八〇万七、八七五円で、その算定方法は別表三記載のとおりであるが、更に、これを敷衍して説明を加える。

(1) 総収入金額 金一、五二六万二、八九四円

春日部税務署長の調査により判明した仕入金額金一、三一五万四、二六六円に、後述する同業者の平均収入割合一一六・〇三パーセントを乗じて、次の算式により算定した。

算式

13,154,266円×116.03%=15,262,894円

(仕入金額) (収入割合)

イ 仕入金額 金一、三一五万四、二六六円((イ)+(ロ))

内訳

(イ) 書籍販売業に関するもの 金一、二四七万三、六五二円

原告は、訴外日本出版販売株式会社(以下、日販という。)から書籍類を仕入れていたが、その仕入高は、金一、二四七万三、六五二円であった。

(ロ) 文房具販売業に関するもの 金六八万〇、六一四円

原告は、訴外丸福商事株式会社(以下、丸福商事という。)から文房具類を仕入れていたが、その仕入高は、金六八万〇、六一四円であった。

ロ 収入割合 一一六・〇三パーセント

収入割合は、左記の方法によって算出した、同業者の平均収入割合一一六・〇三パーセントを採用した。

(イ) 基礎資料の抽出

原告の住所地(越谷市)を管轄する春日部税務署管内及び越谷市と同じ東武鉄道伊勢崎線の沿線である草加市、鳩ケ谷市などを管轄する隣接署である川口税務署管内において、原告と同種の事業を営んでいる個人事業者(ただし、総仕入金額のうち、書籍以外のものの仕入金額が五〇パーセント以上の者を除く。)で、次のいずれの条件にも該当する者を基礎資料として選んだ。

a 昭和四五年中において営業を継続し、年の中途で転業、業態の変更のない者であること。

b 青色申告者であって、税務署長より受けた更正処分に対し不服申立を行い、係争中の者でないこと。

右各条件に該当する同業者は一四名であり、その基礎資料による係数(以下、基礎係数という。)は、別表四(一)のC欄記載のとおりである。

(ロ) 基礎係数の平均値を求める計算

(イ)により抽出した基礎係数のうちに異例な係数が含まれていると、これを単に算術平均して求めた平均値は、適正な平均値といえないので、異例値を除外して平均値を求めた。すなわち、基礎係数の平均値を求め、各基礎係数と算術平均との開差を算出し、次に、開差を二乗したものを算術平均して得た数値を平方に開いて収入割合の標準偏差を求め、これに統計学上一般に用いられている係数一・五を乗じて限界値を求め、さらに有効な基礎係数の上限及び下限を求めて、その範囲内にある基礎係数のみに基づいて平均値(同業者の平均収入割合)を計算した。標準偏差(七・〇七パーセント)、限界値及び平均値(一一六・〇三パーセント)の計算は、別表四(一)ないし(三)のとおりである。

(2) 算出所得率 一三・八〇パーセント

算出所得率は、総収入金額に対する算出所得金額の割合であるが、左記の方法により算出した、同業者の平均算出所得率一三・八〇パーセントを採用した。

イ 基礎資料の抽出

前記(二)1(1)ロ(イ)で抽出した同業者一四名の算出所得率を基礎係数とした。その基礎係数は、別表五(一)のC欄記載のとおりである。

ロ 基礎係数の平均値を求める計算

前記(二)1(1)ロ(ロ)と同様の方法により計算した。なお、標準偏差(一・六六パーセント)限界値及び平均値(一三・八〇パーセント)の計算は別表五(一)ないし(三)のとおりである。

(3) 算出所得金額 金二一〇万六、二七九円

前記(二)1(1)記載の総収入金額金一五二六万二八九四円を基礎にして、これに算出所得率一三・八〇パーセントを乗じて算定したものである。

(4) 雑収入 金一四万〇、五二〇円

原告の仕入先である日販が、仕入金額の決済に当り、取引報奨歩戻金として金一四万〇、五二〇円を原告の仕入代金から控除していた金額である。

(5) 特別経費 金四三万八、九二四円

イ 雇人費 金四一万四、七三二円

原告は、昭和四五年において、女子従業員一名を雇傭していた。

そこで、後記(三)1(1)ロ(イ)によって抽出した同業者の基礎資料から、昭和四六年分の従業員一人当りの一か月平均雇人費(以下、昭和四六年分の同業者の平均月額雇人費という。)を求め、この金額を、現金給与総額指数により修正する方法により、原告の雇人費を算定した。右の現金給与総額指数は、小売業の場合昭和四〇年を一〇〇とすると、昭和四五年分は一六一・五パーセント、昭和四六年分は一九〇・九パーセントである。

なお、同業者の雇人費の基礎係数は、別表六(一)雇人費欄記載のとおりであり、原告の雇人費の計算は、別表六(一)、(二)のとおりである。

また、昭和四六年分の基礎係数を基礎に昭和四五年分を算定したのは、昭和四五年分の基礎資料から得られる金額よりも、原告にとって有利になるからである。

ロ 建物減価償却費 金二万四、一九二円

原告は、事業用店舗兼居宅を昭和四二年五月に新築し、これを事業用に供していたので、右建物の事業用部分の減価償却費を計上した。

その算定方法は、別表七のとおりである。

(6) 事業所得金額 金一八〇万七、八七五円

事業所得金額は、(3)の算出所得金額に(4)の雑収入金額を加算し、(5)の特別経費を減算した金一八〇万七、八七五円である。

2 控除金額 金五一万六、六五六円

原告の昭和四五年分の所得から課税の際に控除される金額は、社会保険料控除、生命保険料控除、損害保険料控除、配偶者控除、扶養控除等合計金五一万六、六五六円である。

3 原告の所得税額 金一八万一、一〇〇円

以上の事実に基づいて計算した、原告の昭和四五年分の所得税額は、金一八万一、一〇〇円であるからこれを下廻ってした昭和四五年分所得税の更正処分に違法の点はない。

4 過少申告加算税金額 金五、九〇〇円

原告の、昭和四五年分の事業所得金額に対する所得税額のうち、過少申告加算税の基礎となる税額に一〇〇分の五を乗じて算出した過少申告加算税額は、別表八(六)欄記載のとおり金五、九〇〇円であるから、これを下廻ってした昭和四五年分の過少申告加算税賦課決定処分に違法の点はない。

(三) 昭和四六年分の各処分の適法性

1 所得金額 金二一一万七、四三九円

原告の昭和四六年の所得金額は金二一一万七、四三九円で、その算定方法は別表九のとおりであるが、更に、これを敷衍して説明を加える。

(1) 総収入金額 金一八一七万六、六一一円

春日部税務署長の調査により判明した仕入金額金一、五二四万八、八三五円に、後述する同業者の平均収入割合一一九・二〇パーセントを乗じて、次の算式により算定した。

算式

15,248,835円×119.02%=18,176,611円

(仕入金額) (収入割合)

イ 仕入金額 金一、五二四万八、八三五円((イ)+(ロ))

(イ) 書籍販売業に関するもの 金一、四五二万〇、三二八円

原告の日販からの仕入高。

(ロ) 文房具販売業に関するもの 金七二万八、五〇七円

原告の丸福商事からの文房具類仕入高。

ロ 収入割合 一一九・二〇パーセント

収入割合は、左記の方法によって算出した、同業者の平均収入割合一一九・二〇パーセントを採用した。

(イ) 基礎資料の抽出

昭和四五年分と同様の基準により抽出した。

抽出条件に該当する同業者は、一八名であり、その基礎係数は、別表一〇(一)のC欄記載のとおりである。

(ロ) 基礎係数の平均値を求める計算

昭和四五年分と同様の方法によって計算した。

なお、標準偏差(七・一八パーセント)、限界値及び平均値(一一九・二〇パーセント)の計算は、別表一〇(一)ないし(三)のとおりである。

(2) 算出所得率 一三・六七パーセント

昭和四五年分と同様の方法により算出した、同業者の平均算出所得率一三・六七パーセントを採用した。

イ 基礎資料の抽出

前記(三)1(1)ロ(イ)で抽出した同業者一八名の算出所得率を基礎係数とした。その基礎係数は、別表一一(一)のC欄記載のとおりである。

ロ 基礎係数の平均値を求める計算

昭和四五年分と同様の方法により計算した。

なお、標準偏差(二・二八パーセント)限界値及び平均値(一三・六七パーセント)の計算は、別表一一(一)ないし(三)のとおりである。

(3) 算出所得金額 金二四八万四七四二円

前記(三)1(1)記載の総収入金額金一八一七万六六一一円を基礎にして、これに算出所得率一三・六七パーセントを乗じて算定したものである。

(4) 雑収入 金一五万五、四三〇円

昭和四五年分と同じく、日販からの取引報奨歩戻金である。

(5) 特別経費 金五二万二、七三三円

イ 雇人費 金四九万〇、二九六円

原告は、昭和四六年においても、女子従業員一名を雇傭していた。そこで、前記(二)1(5)イにおいて求めた、昭和四六年分の同業者の平均月額雇人費金四万〇八五八円に従業員一名の従事月数(一二か月)を乗じて雇人費を算出した。

ロ 減価償却費 金三万二、四三七円

原告は、昭和四六年六月建物の居住用部分のうち二坪を店舗に改造し、金二四万五、九六〇円を支出したので、昭和四五年分でも計上した金二万四、一九二円のほかに、次の(イ)の金二、八二二円と、(ロ)の金五、四二三円を加算した合計金三万二、四三七円が建物減価償却費となる。

(イ) 店舗面積増加分 金二、八二二円

(ロ) 店舗改装費用分 金五、四二三円

なお、右(イ)、(ロ)の算出方法は、別表一二のとおりである。

(6) 事業所得金額 金二一一万七、四三九円

事業所得金額は、(3)の算出所得金額に(4)の雑収入金額を加算し、(5)の特別経費を減算した金二一一万七、四三九円である。

2 控除金額 金五八万四、八五六円

原告の昭和四六年分の所得から課税の際に控除される金額は、金五八万四、八五六円であって、その内容は、昭和四五年分と同じである。

3 原告の所得税額 金二〇万一、六〇〇円

以上の事実に基づいて計算した、原告の昭和四六年分の所得税額は、金二〇万一、六〇〇円であり、従ってこれを下廻ってした昭和四六年分更正処分に違法の点はない。

4 過少申告加算税 金七、〇〇〇円

原告の、昭和四六年分の事業所得金額に対する所得税額のうち、過少申告加算税の基礎となる税額に一〇〇分の五を乗じて算出した過少申告加算税額は、別表一三(六)欄記載のとおり金七、〇〇〇円であるから、これを下廻ってした、昭和四六年分の過少申告加算税賦課決定処分に違法の点はない。

(被告審判所長)

(一) 原告は、昭和四八年一一月一九日被告審判所長の担当審判官(以下、担当審判官という。)に対し、本件各処分の理由となった事実を証する書類、その他の物件の閲覧を請求した。これに対して、担当審判官は、同四九年二月四日原告に対し次の1ないし5の書類を閲覧させたが、所得調査書類の閲覧はさせなかった。

1 昭和四五年分及び同四六年分所得税の確定申告書

2 同更正、加算税の賦課決定決議書

3 同異議申立書

4 同異議決定決議書

5 同所得調査書等要約書

(二) 担当審判官が、右以外の所得調査書類の閲覧を拒否した理由は、右書面に第三者の営業内容や行政上の秘密に関する差益率や所得率などの事項が記載されていたことによるものであるから、右閲覧を拒否するにつき正当な理由があった。なお、担当審判官は、右書面の閲覧に代えて、右書面のうちの処分の理由となった事実の部分をとりまとめた所得調査書等要約書を作成のうえ、原告に閲覧させ、原告の防禦権の行使に不都合を生じないように取り計らったのであるから、本件裁決手続には何らの瑕疵もない。

四  抗弁に対する原告の認否並びに主張

(被告税務署長の抗弁に対する認否)

(一)1 抗弁(一)1の事実のうち、原告が白色申告者であり、原告提出の確定申告書には、所得金額欄に所得金額のみが記載され、収入金額及び必要経費を記載しなかったこと、春日部税務署長の係官が調査を行ったことを認めるが、その余の事実は知らない。

2 同(一)2の事実のうち、係官が調査のため原告方へ臨店したことを認めるが、その余を否認する。

3 同(一)3を争う。

4 同(一)4を争う。

(二) 同(二)、同(三)について

1 被告税務署長は、本訴において、所得金額の推計方法につき数次にわたり新たな主張をしたのであるが、行政処分の取消訴訟において、このような主張の変更をすることは、争点を確定する必要という点からも、取消訴訟の目的という点からも許さるべきものではない。

2 被告税務署長は、証拠調べが終了し、口頭弁論終結直前である昭和五六年二月四日の第三三回口頭弁論期日において、同年一月一六日付準備書面に基づいて、原告の文房具販売に関する仕入、これに対応する収入及び所得を把握したとの新たな主張を追加した。しかし、原告が若干の文房具を販売していた事実は、春日部税務署長において、調査当時から熟知していたことであるにも拘らず、同署長は、本件各処分をするにあたり、文房具販売に関する収入を推計の対象から除外して所得金額を算定し、また本件審理過程においても、全く被告税務署長の主張の基礎になっていなかったのであるから、同被告が、審理の最終段階に至って、このような主張をすることは許されず、従って、右主張は、時機に遅れた攻撃防禦方法として却下されるべきである。

(三)1 抗弁(二)1のうち、(1)イ(イ)の事実、(4)の事実、(5)ロの事実を認めるが、その余の事実を争う。

2 同(二)2の事実を認める。

3 同(二)3、4の事実を否認する。

(四)1 同(三)1のうち、(1)イ(イ)の事実、(4)の事実、(5)ロの事実を認めるが、その余の事実を争う。

なお、建物改造部分の減価償却費として、更に金七七一円を計上すべきである。

2 同(三)2の事実を認める。

3 同(三)3、4の事実を否認する。

(被告審判所長の抗弁に対する認否)

(一) 抗弁(一)の事実を認める。

(二) 同(二)の事実を否認する。

五  原告の主張

(一)  本件推計方法の不合理性

1 被告税務署長は、守秘義務を理由に、本件推計の基礎資料となった同業者の氏名、住所等を開示しないが、これでは、原告において本件推計に対し反証を挙げ、又はその正当性を検証できないから、このような基礎資料による推計は許されない。

2 被告税務署長の推計方法は、個別的類似性を問題とせず、大数的考察を合理性の根拠にするものであるから、その標本件数は、多くなくてはならないにも拘らず、本件の標本件数は過少で統計的合理性に欠ける。

3 仮に、被告税務署長が、原告との類似性に着目して同業者を抽出したとするなら、その抽出に誤りがある。すなわち

原告の店舗は、元荒川と東武鉄道伊勢崎線によって区切られた新興住宅地にあるが、昭和四五、六年ころには商店もまばらで、書籍購入者の絶対数が少なかったから、原告の営業を、以前から住宅密集地で書店を経営する同業者のそれと比較することは意味をなさない。

更に、通常委託販売と注文販売比率は七対三、雑誌と書籍の取扱い比率は七・五対二・五といわれているが、原告は社会科学書と教育図書等を主として販売してきたため、委託販売と注文販売の比率は六対四、雑誌と書籍とのそれは六対四であり、このことは、原告が、利益の少ない商品を数多く取扱っていたことを示すにほかならないから、原告の収入を一般同業者率で評価することはできない。

4 原告は、昭和四六年に店舗改装を行い、それまでの売場面積約八坪を二坪拡大して一〇坪にしたが、売場面積が拡大し本棚が増えれば、仕入書籍のうち本棚に陳列される書籍が在庫として増加する。そして、原告の仕入金額が前年に比して増加した理由は、このように、在庫の増加によるものであるから、これを考慮しない被告税務署長の推計方法は妥当でない。

(二)  原告の昭和四五年分の総収入額は金一、四六一万三、六九八円であって、必要経費は左記のとおり合計金一、三五七万八、五一〇円であるから、その所得額は金一〇三万五、一八八円である。従って、原告の同年における確定申告は正当であって、被告税務署長の原告に対する同年の推計による所得金額の算定は合理性を欠く。

1 仕入金額 一、二四七万三、六五二円

2 一般経費 金三九万一、一九八円

内訳

(1) 公租公課 金六万六、八一〇円

(2) 水道光熱費 金三万六、五八五円

(3) 旅費交通費 金一、〇四〇円

(4) 通信費 金三万三、七九〇円

(5) 接待交際費 金二万七、七〇五円

(6) 広告宣伝費 金三万四、五〇〇円

(7) 損害保険料 金五万四、三四〇円

(8) 修繕費 金一、七五〇円

(9) 消耗品費 金二万八、三二五円

(10) 福利厚生費 金四万八、四〇〇円

(11) 研修費 金八、二五〇円

(12) 雑費 金一万三、三七三円

(13) 返品送料 金三万六、三三〇円

3 特別経費

(1) 雇人費 金六七万円

内訳

中田和子 金四五万円

中田きく 金二一万円

アルバイト 金一万円

(2) 減価償却費 金四万三、六六〇円

内訳

イ 建物 金二万四、一九二円

ロ 軽自動車 金九、一九〇円(購入価格金三六万八、〇〇〇円)

ハ レジスター 金一万〇、二七八円(購入価格金六万八、八〇〇円)

(三)  原告の昭和四六年における総収入額は金一、七四六万三、六六一円であって、その必要経費は次のとおり合計金一、六一四万〇、六五〇円であるから、所得額は金一三二万三、〇一一円である。従って、原告の同年の確定申告は正当であって、被告税務署長の原告に対する同年の推計による所得金額の算定は合理的なものではない。

1 仕入金額 金一、四五二万〇、三二八円

2 一般経費 金四三万二、七九八円

内訳

(1) 公租公課 金五万八、四九〇円

(2) 水道光熱費 金三万九、一六六円

(3) 旅費交通費 金一万三、〇八〇円

(4) 通信費 金三万五、四一三円

(5) 接待交際費 金二万一、〇一〇円

(6) 広告宣伝費 金六万三、七九〇円

(7) 損害保険料 金六万五、〇〇〇円

(8) 修繕費 金一万七、五五〇円

(9) 消耗品費 金四万七、七二一円

(10) 福利厚生費 〇円

(11) 研修費 金一万〇、三五〇円

(12) 雑費 金一万四、五九〇円

(13) 返品送料 金四万六、六三八円

3 特別経費

内訳

(1) 雇人費 金一〇三万三、七五〇円

上林淑子、熊谷よし江、その他の雇人に支払った給与。

(2) 減価償却費 金一五万三、七七四円

イ 建物 金二万四、一九二円

ロ 建物改装分 金九、〇一六円

ハ 軽自動車 金一一万〇、二九〇円

ニ レジスター 金一万〇、二七八円

六  原告の主張に対する被告税務署長の認否及び反論

(一)1  原告の主張(一)1を争う。

被告税務署長は、推計の基礎資料を抽出するにあたって、原告の店舗との事業内容、規模、立地条件の類似性に着目して抽出したものであるから、基礎資料が個別類似性を考慮していないとの原告の主張は、あたらない。

また、被告税務署長が、職務上知り得た秘密を守ることは法律上義務づけられているところ、同業者の売上金額等は、各同業者の秘密にあたるから、これらを、同業者の住所、氏名と共に明らかにすることは、許されない。

原告は、自らの帳簿書類その他の資料によって、自己の実際の所得金額を主張立証することができるから、同業者の名称等を明らかにしないことが、訴訟上原告を不利にするものともいいえない。

2  同(一)2、3を争う。

被告税務署長は、基礎資料抽出の地理的条件として、原告の店舗所在地を管轄する税務署及びこれに隣接する税務署管内であることを考慮しており、それ以外の条件は、本件のように、仕入金額を基礎に推計する場合にはその仕入金額に対応する売上があったことは明らかであるから、これを考慮する必要はない。

仮に、原告の書籍等の取扱比率が原告主張のとおりであったとしても、この程度の営業内容の差異は、被告税務署長の同業者率に包摂されている。

3  同(一)4の事実のうち、原告が昭和四六年に店舗改装を行い、それまでの売場面積を二坪拡大して、一〇坪にしたことを認めるが、その余を否認する。

棚卸商品は、通常店頭に陳列するだけでなく、店頭以外にも保有され、店頭に陳列する金裕をみながら、あるいは、顧客の購入意図を窺いながら随時店頭に陳列していくものである。原告の店舗の拡張は、もともと店頭以外に保有されていたものを、より多く顧客に供覧するため、店頭に陳列する部分を増加させたに過ぎない。

また、被告税務署長の推計方法には、在庫品の増加も考慮されており、前示同業者率の中に包摂されている。

(二)1  原告の主張(二)2を争う。

原告主張の一般経費は真実でなく、かつ必要経費にはあたらないものが含まれている。

2  同3の事実のうち、原告が中田和子を従業員として雇傭していたこと、建物減価償却費が金二万四、一九二円であることを認めるが、その余を争う。

(三)  同(三)の事実のうち、建物の減価償却費が金三万二、四三七円であることを認めるが、その余を争う。

第三証拠

一  原告

(一)  甲第一号証、第二、第三号証の各一、二、第四ないし第九九号証、(第一〇〇号証は欠番)、第一〇一ないし第一三六号証、(第一三七号証は欠番)、第一三八ないし第一七四号証を提出。

(二)  証人熊谷よし江の証言、原告本人尋問の結果を援用。

(三)  乙第八号証、第一六号証の成立を認め、その余の乙号各証及び丙第一号証の成立は不知。

二  被告税務署長

(一)  乙第一号証、第二号証の一ないし五、第三号証、第四号証の一ないし五、第五ないし第九号証、第一〇号証の一ないし五、第一一号証、第一二号証の一ないし五、第一三号証、第一四号証の一ないし五、第一五ないし第一七号証を提出。

(二)  証人福島正人、同坂本昭造、同内藤正男、同山上昌二、同柴田正文、同三尾勝彦、同今村公宜の各証言を援用。

(三)  甲第一号証、第二、第三号証の各一、二、第四ないし第一一号証、第一七ないし第三四号証、第五七ないし第五九号証、第六九ないし第七八号証、第一〇一ないし第一二八号証、第一七三号証の成立を認め、その余の甲号各証の成立は不知。

三  被告審判所長

(一)  丙第一号証を提出。

(二)  証人春原弘二の証言を援用。

(三)  甲第一号証、第二、第三号証の各一、二、第四ないし第一一号証、第一七ないし第三四号証、第五七ないし第五九号証、第六九ないし第七八号証、第一〇一ないし第一二八号証、第一七三号証の成立を認め、その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  原告は越谷市において書籍販売業を営むものであるが、春日部税務署長に対し昭和四五年分の所得税につき、総所得金額を金一〇七万円、所得税額を金六万一、二〇〇円、同四六年分の所得税につき、総所得金額を金一一六万円、所得税額を金六万一、三〇〇円とする確定申告書をそれぞれ提出したところ、同署長は、原告に対し裁決による一部取消前の本件各処分をしたこと、原告はこれに対し異議申立をしたが棄却されたので、審査請求をしたところ、被告審判所長は、これに対し右各処分の一部を取消し、その余の審査請求を棄却する旨の裁決をしたが、これらの詳細は、別表一、二記載のとおりであって、右裁決の結果が昭和四九年六月一二日ころ原告に通知されたこと、以上の事実は、当事者間に争いがなく、春日部税務署長の本件に関する権限が、大蔵省組織規程の一部改正により、昭和五四年七月一〇日被告税務署長に承継された事実は、原告と右被告との間に争いがない。

二  次に、春日部税務署長が右各処分するについてした調査手続に違法事由が存したかどうかについて検討する。

(一)1  原告が、いわゆる白色申告者であり、原告提出の確定申告書には、所得金額欄の所得金額のみが記載され、収入金額及び必要経費の記載がなかったこと、及び右署長の係官が更正処分等をするに先き立ち原告方へ臨店した事実は、当事者間に争いがない。

2  証人福島正人の証言、原告本人尋問の結果(後記信用しない部分を除く。)によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告は、昭和四二年五月一三日から肩書住居地で日野屋書店なる商号のもとに書籍販売業を営んでいるが、本件係争各年における申告所得額が同規模の同業者に比較して過少であると思われ、更に右各申告書には収入金額及び必要経費の記載がなかったこと及び原告は開業以来一度も所得調査を受けていないことから、春日部税務署長は、原告の所得について疑問を抱き、昭和四七年に至って原告の所得についての調査を実施することとしたこと。

(2) 昭和四七年五月二六日、右税務署長の係官であった福島正人及び坂田某が、昭和四五、四六年分の所得調査のため原告方に臨店して用務を述べたところ、原告は、先ず調査理由を尋ね、右係官から前示調査理由を告げられるや、更に「何を調べるのか」と質した上、当日は多忙であって調査に応じられない旨述べ調査を断った。そこで、右係官は、突然の臨店調査であったため、原告の都合を確かめた上、同年六月九日に再び臨店調査することを約して原告方を辞去したが、右約束の調査期日は、後に原告の都合により、同年六月一九日と変更された。

(3) 右係官二名は、原告との約束に基づいて、同年六月一九日原告方へ再度臨店し、原告に対し帳簿書類の呈示を求めたが、その場に同席していた草加民商の事務局員加藤某及び会員ら数名の者が、右係官から退席要求を受けながらも同席し、写真を撮影し、テープレコーダーを作動して、原告とともに、右係官に対し、「原告の申告のどこが間違っているのか。合理的な調査理由を説明せよ。調査理由を文書に記載して持って来い。」等と大声で詰問したので、右係官が再度前示の調査理由を説明したが納得せず、「調査の具体的理由を開示しなければ調査に応じられない」と主張した。そこで、これをめぐって、原告らと右係官との間において一時間余も押し問答を繰り返したが、結局、その日は調査ができなかった。

(4) その後、右福島は他の係官と共に、同年六月二三日から同年九月二八日まで八回にわたって原告方の臨店調査を試みたが、不在の場合を除き、原告は、多忙、急用を理由とし、或いは、前記加藤らを立会させ、同人らと共に、交々納得できるような具体的な調査理由の開示を求めたり、反面調査について抗議をして、右係官所得調査についての協力を拒んでいた。

(5) なお、右福島は、原告の調査協力を得られる見込みがなかったので、その間の同年七月五日ころから、原告の取引先である日販及び足利銀行について反面調査をした。

(6) 右福島ら係官は、同年九月中旬ころ臨店調査に赴いた際には、原告から二時間近くも正座を強いられるなどの嫌がらせを受けたが、同年九月一七日の臨店調査においても、原告は、福島と同行した大塚統括官の入室を拒み、また、その場に居た民商会員加藤らも大声で「大塚は帰れ」等と申し向けて調査を妨害したので、右係官らは、加藤らの立会を拒否した。

右福島は同月二八日原告方に調査に赴いた際も、原告に対し所得調査についての協力を要請したが、原告が依然として従来からの態度を変えなかったため、原告に対しこのような状況では推計課税の方法によらざるを得ない旨を告げて退去し、その後春日部税務署長において前示各更正処分、過少申告加算税賦課決定処分をした。

以上の事実を認めることができ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前顕各証拠に照らして採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)1  国税通則法がその第二四条において「税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等、又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等、又はその税額がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告に係る課税標準等又は税額等を更正する。」と規定しているところによれば、税務署長は、納税義務者がその義務を正しく履行したかどうかを調査する職責を有するものというべきところ、本件においては、前示のとおり、原告の提出した確定申告書には、所得金額のみが記載され、収入金額、必要経費等の記載がなく、所得税法第一二〇条に規定する所得金額の計算の基礎等確定申告書の記載要件を欠く不備なものであり、かつ、本件係争年における原告の申告所得金額が同規模の同業者のそれに比して過少であったというのであるから、春日部税務署長において所得金額の計算の基礎に疑いを容れたのは当然のことであり、しかも、同署長は原告について、昭和四二年の営業開始以来所得調査をしたことがなかったのであるから、右署長が係官をして原告の同四五、四六年分の所得調査をすべき合理的必要性のあったことは、明らかである。

2  次に、所得税法第二三四条に規定する質問検査権は、職権調査の一方法として、当該調査事項に関連する物件の検査を行う権限を認めたものであって、調査理由の開示の如きは、調査を行ううえの法律上の要件ではなく、また、質問検査の範囲、程度、時期や第三者の立会等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において相当な限度にとどまる限り、権限ある税務署員の合理的な選択に委ねられているものと解すべきところ、前記認定の事実によれば、春日部税務署長係官は、前示所得調査をするに際しては原告に対しその調査理由を告げ第三者立会を拒否したというのであるが、仮に原告本人の供述するように、右理由の開示が不十分なものであり、第三者の立会も原告の依頼によるものであったとしても右理由の開示は法律上の要件とされるものではないから、右理由開示が不十分であるが故に右調査手続の違法を招く筋合のものではなく、また、右係官の第三者立会の拒否も、社会通念上相当の限度にとどまり、右係官に委ねられた合理的な選択の範囲内にあるものというべきである。従って、この点に関する原告の主張も理由がない。

3  なお、所得税法第二三四条第一項第三号に規定する反面調査は、納税者の信用に影響を及ぼす虞れも存するから、慎重にすることは望ましいことではあるが、同項第一、第二号の調査の場合より特に厳格に解すべき理由は存しないから、原告の主張するように、納税者に対する調査だけでは課税標準及び税額を把握できないことが明らかになった場合に限って反面調査が可能であるということもできない。従って、右係官が原告と調査理由の開示について交渉中日販等について反面調査を行ったがために、本件所得の調査が違法となるものではない。

(三)  してみると、春日部税務署長の係官が原告に対してした本件所得調査に違法は存しないものといわなければならない。

三  春日部税務署長の原告に対する本件各処分をするについては、推計課税の方法によったものであるから、その必要性について判断するに、前示事実によれば、原告は前示係官の度重なる臨店調査に際し、多忙、急用を理由にして調査を断り、更には第三者を立会させ調査理由の開示を求めるなどして調査を拒み、帳簿書類の提示も拒絶していたというのであるから、原告の本件係争各年分の事業所得金額を実額により算出することは不可能であったというほかなく、従って、右税務署長は、所得税法第一五六条の規定により、右各係争年における原告の課税標準となる所得金額を推計によって算出し、これに基づいて課税するより他に方法がないものというべきであるから、その必要性を肯認することができる。原告は、調査理由の開示について係官と交渉中であったから推計課税の要件が備わっていなかった旨主張するが、前叙認定事実に徴して右主張を採用することはできない。

四  原告の右推計課税に関する被告税務署長の本件訴訟における対応についての主張について判断する。

(一)  原告は、先ず被告税務署長が本訴において推計課税の方法につき数次にわたり新たな主張をしたことが許されないと主張し、右被告が昭和五〇年六月二六日の本件第五回の口頭弁論期日において当初から主張していた推計課税の方法のほかに、新たな基礎資料に基づく推計課税の方法を予備的追加し、更に同五六年二月四日の第三三回口頭弁論期日において原告の文房具販売にかかる仕入価格を把握できたとして、これを加えるとともに従来の主張を整理統合した推計課税の方法を主張するに至ったことは、本件記録上明らかである。しかしながら、課税処分取消訴訟の審判の対象は、当該処分の違法性であり、実体的には当該処分の認定した課税標準又は税額が過大であるか否かによって処分の適否が決せられるのであり、右課税標準又は税額を認定するための推計方法の変更は単なる防禦方法の変更にすぎないから、推計による課税処分を争う訴訟において、課税庁が当該処分の適法性を理由付けるためにする基礎資料や推計方法を変更することが許されないと解すべき理由もない。従って、この点に関する原告の主張は、理由がない。

(二)  原告は、被告税務署長が、原告の文房具販売に関する収入及び所得についてした主張が時機に遅れた攻撃防禦方法であると主張するので、検討するに、被告税務署長が、後記主張を予定し昭和五五年一一月一二日の第三二回口頭弁論期日において、原告の文房具販売に関する証拠として、乙第一五号証を提出するとともに、今村公宜を左廷証人として申請して尋問がなされたことは、本件記録上明らかであって、同被告が同五六年二月四日の第三三回口頭弁論期日において、原告の文房具販売に関する収入等の主張をしたことは、前示のとおりである。そして、証人今村公宜の証言及びこれによって成立を認める乙第一五号証、弁論の全趣旨によると、被告税務署長は、原告が文房具を販売していることは了知していたものの、原告が調査を拒み、その仕入先が明らかでなかったため仕入高等を把握できずにいたところ、同五五年一〇月一五日の本件証拠調期日における原告本人の供述によって、初めてその仕入先が丸福商事であることを知り、同年一一月五日丸福商事の協力を得て仕入高を把握するに至ったことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

以上の事実によれば、被告税務署長の右主張は、本件の口頭弁論終結間際になされたものではあるが、未だ時機に遅れたものということはできず、右主張を許すことによって訴訟の遅延を来すものでもないから、この点に関する原告の主張は失当である。

五  そこで、被告税務署長の推計による所得金額の認定についての合理性について判断する。

(一)  原告の本件各係争年における事業所得金額の算定については、原告の仕入れ金額を基礎にして、これに同業者の平均収入割合を乗じて総収入金額を算出し、更にこれに同業者の平均算出所得率を乗じて算出所得金額を推計する方法がとられている。そして、証人坂本昭造の証言及びこれによって成立を認める乙第一号証、第二号証の一ないし五、証人内藤正男の証言及びこれによって成立を認める乙第三号証、第四号証の一ないし五、弁論の全趣旨によって成立を認める乙第一七号証を総合すると、越谷税務署が分離独立する前の春日部税務署管内及び原告の居住する越谷市と同じく東武鉄道伊勢崎線の沿線である草加市、鳩ケ谷市を管轄する隣接の川口税務署管内において、原告と同種の書籍小売業を営む個人事業者(但し、総仕入金額のうち、書籍以外のもの((例えば、教科書、文房具など))の仕入金額が五〇パーセント以上のものを除く。)で、被告税務署長の主張する基準に適合する者、すなわち特殊事情のある者を除外した者は、昭和四五年には一四名、同四六年には一八名であり、右各同業者の収入割合、算出所得率は、昭和四五年においては、それぞれ別表四(一)、別表五(一)の各C欄記載のとおりであり、同四六年においては、それぞれ別表一〇(一)、別表一一(一)の各O欄記載のとおりであったことを認めることができ、右各基礎係数から被告税務署長主張の方法によって算出した平均収入割合及び平均算出所得率は、昭和四五年分についてそれぞれ一一六・〇三パーセント及び一三・八〇バーセント、同四六年分につき一一九・二〇パーセント及び一三・六七パーセントとなり、その計算は、それぞれ別表四、別表五の各(一)ないし(三)、別表一〇、別表一一の各(一)ないし(三)のとおりである。

(二)  原告は、右推計方法は不合理なものであると主張するので、以下、順次この点について判断する。

1  先ず、原告は、被告税務署長が氏名、住所等を開示しないで同業者の総収入金額、仕入金額を基礎資料としたことは、原告から反証の手段を奪い、その正当性も検証できないものであるから許されないと主張する。しかしながら被告税務署長は、納税者の売上金額等については、国家公務員法第一〇〇条第一項、所得税法第二四三条によって、職務上知り得た秘密として守秘義務を負っているから、同業者の売上金額等と共にその氏名、住所等を明らかにすることは許されないものであり、このことによって原告が訴訟上全く反証の手段を奪われ、その正当性を検証することができないものでもないから、原告の右主張は採用しない。

2  次に、原告は、本件基礎資料は、原告との類似性を問題とせず、かつ、標本件数が過少で統計的合理性に欠けるとも主張する。

しかし、本件で採用された抽出基準は、原告の同業者のうち原告と業態の異なる者を除外し、かつ、原告の店舗の所在地及びその隣接の税務署管内というものであって、右基準によって抽出されて基礎資料とされた同業者は、昭和四五年分が一四名、同四六年分が一八名というのであるから、右同業者は地域的類似性を有し、その標本件数も過少であったということはできず、これに後に説示するところを総合すると、右基礎資料によって得た前示同業者率が、統計的合理性を欠くものということはできないから、原告の右主張は理由がない。

3  また、原告は、原告の店舗が新興住宅地にあり立地条件が悪く、かつ、利益の少ない商品を扱っていたから、原告の収入を同業者率によって評価することは合理的でないと主張する。しかし、前示推計方法は、仕入額を基礎としそれに対応する売上高、所得金額を推計するものであるから、立地条件如何の如きは、仕入高そのものに関係を有するとしても、これに対応する収入(売上)額、所得額に無視できない程度の差を齎すものではないから、立地条件を云々する原告の主張は理由がない。また、取扱商品に関する原告の主張については、これに添う原告本人の供述部分は明確さを欠き、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

4  更に、原告は、昭和四六年に売場面積八坪を二坪拡張して一〇坪としたが、これに応じて仕入書籍のうち在庫となる部分が増加しているにも拘らず、これを考慮しない本件推計の方法は合理的でないと主張し、原告が昭和四六年中に店舗を拡張してそれまでの売場面積八坪を一〇坪にしたことは、当事者間に争いがないところであるが、原告本人尋問の結果によると、原告は在庫商品置場を備えてここに書籍類を保管していたこと、書籍販売業者が商品として陳列し保管する書籍の中には出版社等からの販売委託商品が含まれていること及び原告も開業後四年を経た昭和四六年ころには出版社等からの販売委託書籍が漸増(原告の主張によると、その書籍に対する割合は六割であるという。)したことを認めることができる。

原告は、昭和四六年における書籍の仕入額が前年に比して増加したのは右売場面積の拡張によるものであると主張し、原告の書籍仕入金額が、同四五年において金一、二四七万三、六五二円、同四六年が金一、四五二万〇、三二八円であって、右四六年は四五年に比較して金二〇四万六、六七五円の増加となっている事実は、後に説示するとおりであるが、右増加額がすべて売場面積の拡張によるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、昭和四六年における原告の店舗拡張によって仕入書籍が増加したとしても、到底売場面積の拡大(約二五パーセント)に比例するものではなく、これを大幅に下廻るものということができる。

ところで、前顕乙第一号証、第二号証の一、四、五、第三号証、第四号証の一、四、五、証人山上昌二の証言及びこれによって成立を認める乙第九号証、第一〇号証の一、四、五、証人柴田正文の証言及びこれによって成立を認める乙第一一号証、第一二号証の一、四、五、証人三尾勝彦の証言及びこれによって成立を認める乙第一三号証、第一四号証の一、四、五によると、昭和四六年における基礎資料とされた一八名の同業者の期首と期末における棚卸高の増減割合は、別表一四(一)記載のとおりであること、、すなわち、前示平均収入割合と平均算出所得率を算出するに際し、右基礎資料から別表一四(一)記載順号6、10、14と、同順号6、10の業者がそれぞれ異例値として除外され、残る同業者(平均収入割合算出の場合は一五名、平均算出所得率算出の場合は一六名)について、それぞれの棚卸高の増減を検討すると、いずれの場合も、期末に棚卸高が増加している者が一二名で、そのうち四名が、二五パーセント以上の増加率を示しており、同業者の平均値は、平均収入割合算出の基礎となった一五名については、一三・六六パーセント、平均算出所得率算出の基礎となった一六名については、一一・七六パーセントの増加率を示していることを認めることができる。更に前示のとおり、原告の昭和四六年における書籍の仕入高は前年に比して金二〇四万六、六七五円(一六・四パーセント)増加しているが、原告の自認する書籍の売上高(総収入から雑収入を控除したもの。)も右仕入高に応じて、同四六年は前年に比して金二八三万五、〇五三円(一九・五八パーセント)増加していることは計数上明白である。

以上の事実に基づいて考察するに、原告の前示売場面積の拡張によって増加した仕入書籍の増加があったとしても、それは右同業者の棚卸高増加率の平均値ないしは原告の同四六年における仕入高、売上高の増加率からみても、前示推計による所得額の算定に影響を及ぼさないものとしなければならない。

5  なお、原告は、基礎資料の個別的類似性を強調するが、本件のように、所得調査を拒否しそのために推計課税の方法によらなければならない場合には、営業の実態を把握できない点において個別的類似性のある基礎資料の蒐集に限界のあることを免れないが、右にみたとおり、原告の営業条件が基礎資料とされた近隣の他の同業者のそれと特に差異が認められない以上、右同業者間に通常存する程度の営業条件の差異は、右同業者の前示平均値に吸収され、これを無視して妨げないものというべきであるから、これがため、そのいうところの合理性を失うものと解すべきものではないのである。

(三)  してみると、他に特段の事情のない本件においては、被告税務署長の採用した推計による所得金額算定の方法は、客観性を有し、合理的なものというべきである。

六  そこで、右推計の方法によって原告の所得金額を算定すると、次のとおりとなる。

(一)  本件係争各年分の算出所得金額。

1  昭和四五年分

(1) 総収入金額

原告の日販からの書籍仕入金額が金一、二四七万三、六五二円であったことは、当事者間に争いがなく、前顕乙第一五号証によれば、丸福商事からの文房具類の仕入金額が金六八万〇、六一四円であったことを認めることができるから、原告の仕入金額は、右両者を加えた金一、三一五万四、二六六円となる。

次に、仕入金額に対する平均収入割合は一一六・〇三パーセントであることは前示のとおりであるからこれによって総収入金額を算出すると、金一、五二六万二、八九四円となる。

(2) 算出所得金額

総収入金額に対する平均算出所得率が一三・八〇パーセントであることは、前示のとおりであるから、これによって所得金額を算定すると、金二一〇万六、二七九円となる(なお、文房具類の平均算出所得率は明確ではないが、前示乙第一五号証によると、その売上高に対する利益率は約三五パーセントであるというのであるから、書籍についての算出所得率をもって文房具類の販売による所得を算出することは、原告に利益となっても不利益を齎すものではない。)。

2  昭和四六年分

(1) 総収入金額

原告の日販からの書籍仕入金額が金一、四五二万〇、三二八円であったことは、当事者間に争いがなく、前顕乙第一五号証によれば、丸福商事からの文房具類仕入金額が金七二万八、五〇七円であったことを認めることができるから、原告の仕入金額の合計は、金一、五二四万八、八三五円となる。

次に仕入金額に対する平均収入割合が一一九・二〇パーセントであることは前示のとおりであるから、これによって総収入金額を算出すると、金一、八一七万六、六一一円となる。

(2) 算出所得金額

総収入金額に対する平均算出所得率が一三・六七パーセント(文房具類については、前に説明したとおりである。)であることは前示のとおりであるから、これによって所得金額を算出すると、金二四八万四、七四二円となる。

(二)  雑収入

昭和四五年が金一四万〇、五二〇円、同四六年が金一五万五、四三〇円であることは、いずれも当事者間に争いがない。

(三)  特別経費

1  雇人費

(1) 原告が、昭和四五年中に中田和子を従業員として雇傭していた事実は、当事者間に争いがない。原告は、原告の妻である中田キクにも給与を支払っていたと主張するが、成立に争いのない乙第八号証及び原告本人尋問の結果によると、中田キクは原告と生計を一にする配偶者であることを認めることができるから、中田キクに対する右支払は、必要経費と認めることはできない(所得税法第五六条)。また、アルバイトの雇傭に関する甲第一七二号証の記載、原告本人の供述だけでは、右事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そして、前顕乙第五、第六号証、証人熊谷よし江の証言によると、昭和四六年二月ころ、中田和子が退職し、その後間もなく熊谷よし江が原告に雇傭されたことを認めることができる。原告は、更に、上林某などを雇傭していたと主張するが、この点に関する甲第一七二号証の記載、原告本人の供述は、信用できず、また、証人熊谷よし江の証言によっても、これを認めることはできないし、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(2) 前顕乙第一号証、第二号証の一、四、五、第三号証、第四号証の一、四、五、成立に争いのない乙第一五号証、証人坂本昭造、同内藤正男の各証言を総合すると、前記四(一)において抽出した、昭和四六年分の同業者の雇人費は、別表六(一)雇人費欄記載のとおりであること、埼玉県における小売業の現金給与総額指数は、昭和四〇年を一〇〇とすると、昭和四五年には一六一・五、同四六年には一九〇・九であったことを認めることができるから、これによって、被告税務署長主張の方法により原告の雇人費を求めると、別表六(二)の計算表記載のとおりの昭和四五年分は金四一万四、七三二円、同四六年分は金四九万〇、二九六円となる。

2  減価償却費

(1) 原告は、事業用店舗兼居宅を昭和四二年に新築し、その一部を事業用に供していたが、右建物の事業用部分の減価償却費は、一年につき金二万四、一九二円であること及び原告が昭和四六年六月に改造した右建物の店舗部分の減価償却費が金八、二四五円の限度において、いずれも当事者間に争いがない。なお、原告は、右改造部分の減価償却費として金七七一円を主張するが、これを認めるに足りる証拠は存しない。

(2) 原告は、軽自動車、レジスターの減価償却費をも主張するが、前顕乙第一号証、第三号証、証人坂本昭造、同内藤正男の各証言によると、本件の推計においては、建物減価償却費以外の減価償却費は一般経費の中に含めていることを認めることができるから、更に、原告主張の如き減価償却費を特別経費として計上することはできない。

(3) 従って、減価償却費は、昭和四五年分が金二万四、一九二円、同四六年分が金三万二、四三七円となる。

(四)  以上の事実によれば、原告の所得金額は、(一)の算出所得金額に(二)の雑収入金額を加算し、(三)の特別経費を減算したものであるから、昭和四五年分は金一八〇万七、、八七五円、同四六年分は金二一一万七、四三九円となる。

この点について、原告は、昭和四五年における総収入額は金一、四六一万三、六九八円、所得金額は金一〇三万五、一八八円、同四六年における総収入額は金一、七四六万三、六六一円、所得金額は金一三二万三、〇三八円であり、推計による右所得金額の算定は過大であると主張するが、右の各総収入金額については、いずれも文房具類の販売に関する金額が含まれていないことは、その主張に照らして明らかであり、また、その特別経費たる雇人費については、前に認定した金額を越えて認定することができないのみならず、それ以外の一般経費についても、その支出を裏付けるに足りる資料の存しないものも数多くあり、また、証拠として提出された証憑書類の中には家事関連費に係るものを含んでいることが明らかである。のみならず、原告の右主張に基づいて所得率を算出すると、昭和四五年分は七・〇八パーセント、同四六年分は七・五八パーセントとなり、前示同業者の平均所得率に比して著しく低く、また、右同業者のいずれの算出所得率にも甚しく劣ることは明らかであり、これに原告の営業条件が他の同業者のそれに比し特に差異がないとの前示認定事実を総合すると、原告の右所得についての主張は、到底正確な計算に基づくものと認めることはできないのである。

これを要するに、原告の全立証をもってしても、推計の方法により原告の本件係争年における所得金額を算出した点の合理性を否定できず、右所得金額の算定が過大であると認めることはできないものといわなければならない。

七  所得税額、過少申告加算税額について

原告の所得から控除される金額は、社会保険料控除、生命保険料控除、損害保険料控除、配偶者控除及び扶養控除等であって、昭和四五年分は金五一万六、六五六円、同四六年分は金五八万四、八五六円である事実は、当事者間に争いがない。そうすると、原告の課税されるべき所得金額は、前記五認定の所得金額から控除金額を控除した額であるから、昭和四五年分は金一二九万一、〇〇〇円、同五六年分は、金一五三万二、〇〇〇円(いずれも金一、〇〇〇円未満切捨て)となり、原告の右所得金額に対する所得税額は、昭和四五年分は金一八万一、一〇〇円、同四六年分は金二〇万一、六〇〇円(いずれも金一〇〇円未満切捨て)となり、原告が更に納付すべき所得税額は、昭和四五年分は金一一万九、〇〇〇円、同四六年分は金一四万〇、〇〇〇円となる。そして、国税通則法第六五条第一項の規定によると、原告が更に納付すべき所得税額(金一、〇〇〇円未満切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて得た額(金一〇〇円未満切捨て)を、過少申告加算税として賦課決定することができるからその過少申告加算税は、昭和四五年分が金五、九〇〇円同四六年分が金七、〇〇〇円となるが、その計算関係は、別表八、別表一三記載のとおりである。

八  以上に認定したとおりであるから、春日部税務署長が原告に対してした本件各処分は、いずれも現実の所得金額、税額を下廻るものであるから、これを目して違法なものであるということはできない。

よって、本件各処分の取消を求める原告の本訴請求は、いずれも失当として棄却すべきものである。

九  次に被告審判所長のした裁決の手続について判断する。

(一)  原告が昭和四八年一一月一九日担当審判官に対し、本件各処分の理由となった事実を証する書類、その他の物件の閲覧を請求したこと、これに対して担当審判官は、同四九年二月四日原告に対し被告審判所長主張のとおりの各書類を閲覧させたが、その余の所得調査書類の閲覧を拒否した事実はいずれも当事者間に争いがない。そして、証人春原弘二の証言及びこれによって成立を認める丙第一号証によると、右所得調査書類は、調査担当者の上司に対する報告書として作成されたものであって、原告の所得金額を推計するために同業者の売上金額、差益金額、差益率、所得金額、所得率等第三者の個人的秘密に属する事項及び税務調査技術に関する事項等の税務行政の機密に触れる事項が混然一体となって記載されており、これらの秘密事項のみを分離して閲覧させることが不可能であったこと、そこで、被告審判所長は、その中から必要とされる部分を抽出して所得調査書等要約書を作成したうえ、これを原告に閲覧させたこと、右要約書は、行政上の秘密事項を除いたほか、個人的秘密にわたる点についてはその住所氏名など秘密の帰属主体が明らかにされる事項を符号に代えたものであって、所得調査書類とその内容の点において同じものであったことを認めることができる。

(二)  右に認定した事実によれば、担当審判官が所得調査書類の閲覧を拒んだ点については、国税通則法第九六条第二項にいう正当な理由があったものというべきであるから、この点に関する被告審判所長の抗弁は理由がある。

なお、所得調査等要約書は、原告に対する所得調査書類とその内容において同じものであって、これを原告の閲覧に供したことは、右に説示したとおりであるから、所得調査書類の閲覧ができなかったからといって、そのために原告の防禦権の行使が妨げられたものと認めることもできない。

(三)  してみると、被告審判所長のした本件の裁決手続に違法な点は認められないから、これが存在を前提として本件裁決の取消を求める原告の本訴請求は、失当として棄却すべきものである。

一〇  よって、原告の本訴各請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長久保武 裁判官 大喜多啓光 裁判官 山田知司)

別表一 昭和四五年分処分経過表

<省略>

別表二 昭和四六年分処分経過表

<省略>

別表三 昭和四五年分所得計算表

<省略>

別表四 昭和45年分収入割合計算表

(一) 標準偏差の計算

<省略>

別表四

(二) 限界値の計算

<省略>

(三) 平均値の計算

<省略>

別表五 昭和45年分算出所得率計算表

(一) 標準偏差の計算

<省略>

別表五

(二) 限界値の計算

<省略>

(三) 平均値の計算

<省略>

別表六

(一) 昭和46年分月間雇人費計算表

<省略>

(二) 昭和45.46年分の年間雇人費計算表

<省略>

別表七 建物減価償却費計算表

<省略>

別表八 昭和四五年分税額計算表

<省略>

別表九 昭和四六年分所得計算表

<省略>

別表十 昭和46年分収入割合計算表

(一) 標準偏差の計算

<省略>

別表十

(二) 限界値の計算

<省略>

(三) 平均値の計算

<省略>

別表十一 昭和46年分算出所得率計算表

(一) 標準偏差の計算

<省略>

別表十一

(二) 限界値の計算

<省略>

(三) 平均値の計算

<省略>

別表十二 建物改装分減価償却費計算表

イ 店舗面積増加分(二坪) 二、八二二円

ロ 店舗改装費用分(二四五、九六〇円)五、四二三円

右イ、ロの計算根拠

<省略>

別表十三 昭和四六年分税額計算表

<省略>

別表十四 昭和46年分同業者たな卸高増減表

(一)

<省略>

(二) 増加率の平均値算定

<省略>

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